うまくいかないAIプロジェクトを”止める勇気” ~DX失敗事例に学ぶ長期化防止策~

いまやAI導入やデータ活用のプロジェクトは、多くの企業で取り組まれています。
AIは必ず成功するとは限らないため、要求精度が出ないなどの理由で中断することもあります。
これらは「良い経験」として、トライ&エラーを繰り返しながら、本当に使えるAIを導入していくものです。

一方で、そのAIプロジェクトの止め時を見誤り、
「成果が出なく、今後うまくいく見込みも薄いのに長期化してしまうAIプロジェクト」
というのも少なくありません。

本記事では、AIプロジェクトの止めどきをテーマに、
DX失敗事例をもとにした「長期化を防止するための判断基準」を解説します。

ここでは実例をもとに、何が問題だったのか?どうするべきなのか?を紹介します。

※実際の組織が特定できないよう、分析内容等については内容を変えています。

目次

【AI失敗事例】見込みが薄いのに2年続き、何も残らなかったAIプロジェクト

切削加工により製品を製造しているメーカーであるA社は、
加工設備の刃具の破損による設備のダウンタイムや歩留まりの低下が問題でした。

そこで、刃具が壊れる前に交換できるように、
加工設備の刃具破損の傾向を予知する仕組みを考えることになりました。
A社ではデータを活用する知見を持った人はいなく、データ分析会社であるB社に依頼しました。

A社では40種類の刃具を扱って製造を行っていますが、
まずは製品のボリュームゾーンである10種類に対してデータ分析を行うことにしました。

開発初期(~6カ月)

B社とは半年間で契約し、プロジェクトが開始しました。
まずは装置から収集できるデータ、刃具や加工する製品の種類について確認を行い、
実際に製造されるデータを収集し、加工データの可視化および統計的手法により刃具の摩耗に傾向がないかを確認しました。

結果として、刃具が破損したときの数値の変化は検出できましたが、消耗を予知することはできませんでした。
B社は、「収集できたデータが少なかったため傾向を分析することが難しかった。データを蓄積しながらAIによる検出を検討していきたい」と1年間のプロジェクト延長を提案しました。
A社は上記提案を受け入れ、プロジェクトを1年間延長しました。

開発中期(~18カ月)

B社は振動、電力のデータを取得しながら、機械学習の異常検知モデルの検討を開始しました。
十分なデータが集まるにはある程度の期間が必要でしたが、並行して複数のアルゴリズムの検証、報告を進めました。

さらに半年経過した後、現在の設備で取得できるデータの粒度では十分な分析が難しい可能性があることが分かってきました。
しかし、設備の仕様を変更することは難しいこと、データが増えればAIとしては検出できるかもしれない、という希望をもとに、比較的傾向が分かりやすかった1種類の刃具について分析を深堀していく方向で分析を進めましたが、結果的に、1種類の刃具でもうまく予知はできていませんでした。
A社としては初めてのAIプロジェクトとして成功させたい意思もあり、さらにプロジェクトの延長を決定しました。

結末

プロジェクトを延長し、さらにデータ取得を行いながら分析を行っていきます。
そんななか、A社で大幅な予算削減を行う必要が出てきました。
最終的に、部署の予算削減をきっかけにプロジェクトは終了しました。

結果、刃具が破損したときにいち早く検出するAIを作ることはできましたが、予知をすることはできませんでした。

このプロジェクトの何がいけなかったのか

このプロジェクトは下記3つの問題があり、プロジェクトの止め時を見失ってしまっていました。

1. 目的が形骸化してしまった

本来の目的は「刃具の破損を予知してダウンタイムを減らす」ことでした。
ところが、途中から「AIで何か成果を出すこと」自体が目的化してしまっていました。

2. KPI・判断基準があいまいだった

半年・1年といった期間ごとに「どこまで成果を出すか」という目標がなく、
続けるかやめるかの判断軸を持てていませんでした。
そのため、結果として「延長ありき」になり、判断が後手に回ってしまいました。

3. データの限界を見切れなかった

現状のデータの粒度では難しいことが分かったのにも関わらず、
「データが増えれば改善するかもしれない」という期待で延命してしまいました。

DX担当者が確認すべき「止めどきチェックリスト」

AIやデータサイエンスは万能ではありません。だからこそ、止める勇気が必要です。
早期に止めることで長期化を防ぐことは、将来の戦略に大きな価値をもたらします。
「できなかった」は失敗ではなく「知見」なのです。

もし、これからAIやDXのプロジェクトを始めようとしているなら、
以下の3点をプロジェクト計画時にあらかじめ設定しておくことをおすすめします。

✓ プロジェクトの目的をしっかり明文化しているか?

途中で目的が手段に置き換わってしまわないよう、プロジェクトの目的を明文化しましょう。
「何が問題・課題」で、「何を解決したいか」を明文化し、誰でもいつでも見れる状態にしておくことで、プロジェクトの無駄な長期化/方向性のズレを予防することができます。

✓ KPI(評価基準)を数値で決めているか?

「ここまでに成果が出なければ終了」と明確な基準を設定しましょう。
また、数字にはROI(投資対効果)をもとに、しっかり根拠を持たせましょう。
例:「6カ月以内に検知精度70%(損益分岐点)以上」など。

✓ データの質と量を評価できているか?

「データを集めればそのうち成果が出る」ではなく、現状データで実現可能かを初期段階で検証しましょう。

まとめ

AIプロジェクトは「成功」か「失敗」かの二択ではありません。
途中で止めることも立派な成功の一形態であり、次の挑戦につながる知見の蓄積です。
重要なのは、見切りのタイミングをあいまいにせず、組織として学びを未来へ活かすこと。

その積み重ねこそが、真に成果を生むDXへの最短ルートなのです。

AIプロジェクトの診断・ご相談はこちら

タカデータワークスでは、製造業をはじめとする多くの企業のDXプロジェクトを支援してきました。
ときには「続ける」だけでなく「止める」という判断を提案することで、長期化や失敗を防ぎ、次の挑戦につなげるサポートを行っています。

「このプロジェクト、続けるべきか止めるべきか…」
「続けるにしても、どのように舵を切ればよいか分からない…」
そんなお悩みがあれば、ぜひ一度ご相談ください。

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この記事を書いた人

データ活用アドバイザー
精密機器メーカーでデータサイエンス組織立ち上げからAI開発/DX推進を進めています。
「タカデータワークス」 を創業し、様々な企業のDX推進をサポートしています。
現場の課題整理からシステム開発、業務改善まで一貫して支援。
「データ活用で日本の製造業を強くする」ことをテーマに活動しています。

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